野球肘

投球によって肘関節に生じる障害を野球肘と言います。野球肘は障害部位によって内側型、外側型、後方型に分けることができます。肘関節の障害は、子供と大人では障害が発生する部位に違いが見られます。成長段階の時期には、骨や関節軟骨の障害が多くみられ、成人になると筋肉や腱の付着部、靭帯の損傷が多くなる傾向があります。

 

内側型障害

肘関節の内側、上腕骨内側上顆には内側側副靭帯と回内屈筋群が付着しています。内側型野球肘の発症メカニズムは、投球動作のコッキング期後半から加速期にかけて、肘関節内側部分に牽引性のストレス(外反ストレス)が加わることにより内側型野球肘を発症します。

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内側型によく見られる障害として、成長段階にある少年野球選手の場合、靭帯自体を痛めるよりも靭帯が上腕骨に付着する部分が剥がれる上腕骨内側上顆裂離骨折を、成人では内側側副靭帯損傷が上げられます。内側側副靭帯は、肘関節周囲の筋肉と協調して投球時の牽引性ストレスに対抗し、肘関節内側の安定性に大切な役割を果たしています。

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右の写真はレントゲン画像です。内側側副靭帯付着部分の骨が剥がれてしまっている状態(上腕骨内側上顆裂離骨折)左の写真はMRI画像です。内側側副靭帯の中央部分が切れている状態(内側側副靭帯断裂)

内側型野球肘の症状

➣ 肘の内側に痛みを感じる

➣ 肘の曲げ伸ばしに制限が出る

➣ ボールが抜けてしまい、スピードが出ない

➣ ボールを投げた後、握力がなくなる、しびれる

 

投球時肘関節内側側副靭帯に加わるストレス

ピッチングでどれぐらいの力が内側側副靭帯に加わるか、アメリカで行われた研究結果があります。

➣ コッキング期後半から加速期にかけて、肘の内側には64N-m の内反トルクが加わる

(Glenn S. Fleisig, et al: Kinetics of Baseball Pitching with Implications About Injury Mechanisms  AJSM (23)233-239 1995)

➣ その約54%にあたる34.6N-m が内側側副靭帯に加わる

(Morrey B, An K: Articular and ligamentous contributions to the stability of the elbow joint.  Am J Sports Med 11 315-319, 1983)

➣ 屍体による研究では、内側側副靭帯は32N-mの力が加わると、靭帯は切れてしまう

(Dillman CJ, et al: Valgus extension overload in baseball pitching (abstract).  Med Sci Sports Exerc 23 (Suppl 4) S135, 1991)

したがって、肘周囲筋群の筋力強化と肘内側へのストレスが増大する投球フォームを避けることが大切なことが理解できます

 

野球肘を予防するポイント

➣ 肘が下がった投げ方、腕が遅れてくる投げ方は肘関節内側部分に牽引性のストレスが増大します。上半身が早く開く、腕の力に頼った投球フォームにこの傾向が見らます。コッキング期前半で過剰に腕を体の背面に引きすぎないこと、下半身主導での体重移動(並進運動)による腕の振りの習得

➣ 肘関節周囲筋の筋力強化、可動域の確保

➣ 体幹筋の強化、肩甲骨周囲筋、股関節の柔軟性の確保

➣ 変化球の投球開始年齢、特にスライダーは肘関節に大きなストレスが加わる1) ので16歳頃までは投げるべきではない

➣ 小学生の場合、1日の全力投球数50球以内、週200球以内に制限、週間練習時間16時間以内、年間試合数70試合未満2) とする

 

参考文献

1)Fleisig., et al: Risk of serious injuries for young baseball pitchers  A 10-year prospective study.   Am J Sports Medicine 2011,39(2),253-257

2)日本臨床スポーツ医学会整形外科学術部会編: 資料1青少年の野球障害に対する提言 野球障害予防ガイドライン   文光堂,東京,219,1998