野球肘(後方型障害)

投球によって肘関節に生じる障害を野球肘と言う。野球肘は障害部位によって内側型、外側型、後方型に分けることができる。

多くの野球選手の診察に当たっているスポーツドクターに話を伺うと、後方型は内側型や外側型に比べるとさほど多くないようです。その主な障害は骨の成長線が閉じる前は肘頭骨端離開、骨端線閉鎖不全、成長線が閉じた後は肘頭疲労骨折骨棘形成(変形性関節症)を発症します。

 

障害発生メカニズム

Slocum 1)、King 2)らは、投球による肘頭骨端離開は加速期での上腕三頭筋の牽引力と考察した。

伊藤3)らのバイオメカニクスによる研究では、フォロースルー期での過伸展ストレスによって肘頭と肘頭窩が衝突を繰り返すことで疲労骨折を発症すると考察しました。一方、中村 4)らは肘頭骨端線部の疲労骨折は、上腕三頭筋の牽引力が原因としましす。

伊藤5古島6)らは後方型野球肘を、上腕三頭筋の付着部が肘頭先端ではなく尺側背面に広く付着している解剖学的形状やレントゲン画像から考察し、投球など投擲競技による疲労骨折は骨折線の走行が関節面側から発症していること、上腕三頭筋の牽引力によって発症すると考えられる体操、ウエイトリフティング、弓道などの種目は骨端離解で、これらの骨折線は背面から開大していることをあげ、投球による肘頭骨端離開および肘頭疲労骨折の発生メカニズムは上腕三頭筋の牽引によるものではなく、コッキング期後半から加速期での外反ストレスとフォロースルーでの過伸展ストレスが加わることが原因と提唱し、肘の内側に不安定性が存在すると肘頭疲労骨折の大きなリスクファクターとなると述べています。投球動作と弓道などの発生メカニズムは分けて考えることが大切と提案しています。

Wilson 7)らも肘内側側副靱帯の緩みがある場合、投球時肘関節には急激な外反・伸展ストレスが加わることで肘頭と肘頭窩が衝突を生じるとし、肘関節後方の投球障害をvalgus extension overload syndrome(外反伸展過負荷症候群)と呼びました。

内側型障害を負った選手が投球を再開する場合、不安定性が残らないように投球再開はドクターの指示を守り、自己判断で投球を再開することは避けることが大切です。

       

 

       

投球による肘頭疲労骨折              肘頭骨端離開

 

症 状

投球時のボールリリースからフォロースルー期にかけて痛みを訴える。

痛みを訴える箇所は肘の後側、肘頭部分。

肘関節の過伸展、外反ストレスを加えることにより痛みが増悪する。

 

後方型野球肘の予防ポイント

コッキング期前半に過剰に腕を後方に引きすぎる投球フォームは、コッキング期後半から加速期にかけて腕が身体に対して遅れ、肘が肩の高さよりも下がっているケースが多く肘に外反ストレスが増大する。このような投球フォームは修正が必要

下半身の柔軟性、特に股関節の柔軟性確保

肩甲骨を含めた肩後方部分の柔軟性確保

コアの強化

過伸展ストレスに対抗する上腕二頭筋の強化

外反ストレスに対抗する尺側手根屈筋の強化

投球数の管理

 

症例の見極めができる知識・判断力が大切

昨年から野球肘を内側型、外側型、後方型に分け書いてきました。成長期の野球選手が来院する治療院や整骨院の先生方は、成長期のスポーツ障害は骨軟骨組織の障害が多くみられることを再度認識し、特に医療機関を受診する前に来院した選手に対しては、よりしっかりとした問診、正しい徒手評価を行い、疼痛が強い場合や徒手検査で陽性反応が出た場合、疼痛部位や損傷部位がはっきりせず迷う症例、軽度損傷以外の怪我に対しては、まずドクターの診察を受けてもらうように選手・親御さんに説明をし、医療機関への受診を勧めるべきです。

怪我の状態をしっかり把握できないまま中途半端な状態で施術やリハビリを行い「一定期間が過ぎた後に、怪我の状態が良くならないので、やはり一度ドクターに診てもらおう」ということだけは避けなければいけません。そのためにも医療機関との連携は必要不可欠ということを認識し、最初から自分で抱えてよい症例、抱えてはいけない症例の見極めをしっかり出来る知識、判断能力を身に着けることがアスレティックトレーナーや治療院、整骨院の先生方には大切だと思っています。

 

参考文献

1) Slocum,D.B: Classification of elbow injuries from baseball pitching.  Tex. Med.64: 48-53,1968

2) King,J.W.et al: Analysis of pitching arm of the professional baseball pitcher.   Clinic Orthop. 67: 116-123,1969

3) 伊藤益英ほか:肘頭疲労骨折 バイオメカニズムからの検討  日整スポ会誌14:55-60,1994

4) 中村英次郎ほか:中・高校野球選手に発生した肘頭疲労骨折の経験と考察  整スポ会誌14:41-46,1994

5) 伊藤恵康ほか:スポーツ障害としての肘頭骨端離開・疲労骨折の病態  日肘会誌11(11):45-46, 2004

6) 古島弘三、伊藤恵康:肘頭疲労骨折および肘周辺疲労骨折について 臨スポ医学 26(5):507-515,2009

7) Wilson,F.D.et al: Valgus extension over load in pitching elbow.   Am J Sports Med (11):83-88,1983