肘関節内側側副靭帯損傷

2014年に医学誌に掲載された肘関節の内側側副靭帯(UCL)損傷に関する文献 1)について今回は書きます。UCL損傷は、多くのメジャーリーグ(MLB)選手や日本人MLB選手ダルビッシュ有投手、田澤純一投手らも損傷し手術を受けた部分です。最近ではこの手術はおおむね良好な成績が得られるようになり、MLB選手を対象とした調査では約83%の選手が損傷前のレベルもしくはそれ以上のレベルに回復し競技復帰しています 2)。日本のプロ野球でもMLBほど手術件数は多くはありませんが、現役選手の中にも手術を受けている選手が数人います。

このUCL損傷に関して、2010年から2014年6月1日までの期間に、UCLの再建手術(※通称トミー・ジョン手術 )を受けた247人のMLB投手(日本、ドミニカ、ベネズエラ出身選手を含む) に関して、彼らが① 高校生時代に暖かい気候の地域もしくは寒い気候の地域どちらでプレーをしていたのか ② 手術を受けた年齢 ③ 手術までのMLB在籍年数を調査しています。

この調査では、北緯33度地点(赤線)で北と南の地域に分け、北側(地図上部分)を寒い地域、南側(地図下部分)を暖かい地域として定義しています。実際には州で分けるため青線で両方の地域を分けています。

 

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MLB選手の出身地域(2014年6月1日現在、投手・野手合わせ17,897人)

暖かい地域出身者   6,359人(35.5%)

寒い地域出身選手者  11,538人(64.5%)

2010年-2014年5月の間にUCL再建術を受けた選手(内訳:投手247人)

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調査結果

暖かい地域の高校で野球をしていたMLB投手は、寒い地域で野球をしていた投手よりも、MLBのキャリア前半でより頻繁にUCL再建術を受ける傾向にあり、手術までのプレー年数が約1年早かった。

UCL再建術を受けた247人の投手の出身地を比較すると、寒い地域出身選手(139人)の方が暖かい地域出身選手(108人人)よりも多いにもかかわらず、暖かい地域出身選手の方がUCL再建術を受けている手術件数(56.9%)が多いということは、暖かい地域では1年を通して試合ができる気候のため、年間を通して試合数、投球イニング、投球数が多くなり、寒い地域に比べオーバーユース傾向になり、高校生の時期に肘関節へ度重なるストレスが加わることで、のちにMLBプレーヤーになった時にダメージを受けていた靭帯が損傷を起こすのではないかと推測しています。

この調査では、野球を開始した年齢や投手を始めた年齢については触れていませんので野球経験年数、投手経験年数とUCL損傷との関係についてはわかりません。

 

☞コメント

日本の小学生を対象にした投球障害調査3)や、アメリカのスポーツ医学研究所で行ったユース期の投球障害に関する調査4)からもイニング数、投球数が多くなるに比例して投球障害率が高まる傾向にあると結論付けられています。成長期に度重なるストレスが同一部分に加わることで微細損傷を受け、のちの野球人生を棒に振ることがないように、コントロールを良くするためにコーナーへ投げ分ける投球練習、投球スピードに差をつける、変化させる(フォーシーム、ツーシーム)投球練習など目的をしっかりと持って練習に取り組み無駄な投球をなくす努力(投球数の管理)をすること、投球しない日を設定することが大切ではないでしょうか!

 

※トミー・ジョン手術

1974年にDr. Frank Jobeが考え出したUCL再建術方法で、当時ロサンゼルスドジャーズに在籍していた投手Tommy JohnがMLBで初めてこの手術を受け、その後MLBに復帰しカムバック賞を受賞しました。彼の名にちなんでUCL再建術を通称トミー・ジョン手術となずけられました。

参考文献

1. Brandon J. Erickson, et al: Is Tommy John Surgery Performed More Frequently in Major League Baseball Pitcher From Warm Weather Areas? Ortho J Sports Med、2(10)1-6,2014

2. Brandon J. Erickson, et al: Rate of Return to Pitching and Performance After Tommy John Surgery in Major League Baseball Pitchers.  Am J Sports Med,42(3)536-543,2014

3. 日本整形外科学会 全日本野球協会 合同調査 2015年

4. Fleisig, et al: Risk of Serious Injury for Young Baseball Pitchers A 10-Year Prospective Study     Am J Sports Medicine 2011,39(2), 253-257