腰痛へのアプローチ

アスリートの腰痛発症頻度は高いという報告が多数みられる。当院に来院するアスリートの約30%(主に野球、バレーボール)、一般ゴルファーの方が腰痛を主訴として来院します。腰痛の主な病態は椎間板性腰痛、椎間関節性腰痛、仙腸関節性腰痛、筋性腰痛(筋筋膜性腰痛、筋付着部障害)をあげることができます 1)

今回は、腰痛に悩むアスリートに対して当院で行っているアプローチについて報告します。最初に、可動域と運動痛について評価を行います。腰椎、股関節の可動性および各運動方向へ動かした時の痛みの有無、痛みの部位を評価します。次に、胸椎の可動性および肩甲骨の位置を確認し、その後腹筋・背筋・中殿筋の筋力を評価していきます。

後屈・回旋運動(Kempt’s test)で腰椎部分に痛みを訴える場合(特に成長期の選手)、下肢の筋力差が顕著な場合、臀部から下肢にかけて痺れを訴える場合など器質的な問題が考えられる症例に対しては、まずスポーツドクターに診察を依頼します。

器質的問題の有る無しに関わらずドクターの指示が保存療法となった場合、当院では下肢筋、股関節周囲筋群(殿筋、大腿筋膜張筋、内転筋、腸腰筋)、腰部、肩甲骨周囲筋(僧帽筋、肩甲挙筋)に対して筋緊張、痛みの緩和を目的にマッサージ、パルス鍼治療、温熱療法等を実施します。

アスレティックリハビリテーションは、不良姿勢の改善、全身の柔軟性改善を目的とした23種類のストレッチング・プログラム(http://k-sportsmassage.jp/stretching/)、ジョイント・バイ・ジョイント セオリー(以下JBJT)に基づいたトレーニングアプローチ、腰椎の安定化プログラム、腰椎へのストレスを軽減する回旋動作の習得などを指導しています。

 

不良姿勢の改善

■上半身の重心が前方変位している姿勢の改善

❖ 胸椎、肩甲骨周囲筋の柔軟性を確保し、頭部前方偏位、肩関節内旋位、肩甲骨外転位の姿勢から、頭部・肩関節中間位、肩甲骨軽度内転位(イラスト)へ、正しいアライメントの姿勢へと改善

 改善方法: 胸筋のストレッチング、肩甲骨周囲筋(僧帽筋中部・下部線維、菱形筋)の筋力強化

      

    

 

❖ 腰椎後方支持組織の安定化

➡ 背筋・殿筋、特に多裂筋や中殿筋の強化

    

      

 

■骨盤後傾姿勢の改善

➡ 大腿部後方に位置するハムストリングスの柔軟性の確保(ハムストリングスの柔軟性低下は骨盤の円滑な前傾運動が行えず、過剰な腰椎前屈による前傾運動が起こり椎間板への負担が大きくなる)

➡ 股関節前方に位置する腸腰筋、大腿直筋の柔軟性の確保も忘れずに

 

ジョイント  バイ  ジョイント  セオリー(Joint by Joint Theory)

この理論は、アメリカの理学療法士Gray Cook 2)とコンディショニングのスペシャリストMichael Boyle 3)によって提唱されたもので、主要な関節の主な機能を可動性(モビリティ)と安定性(スタビリティ)に分類し、それぞれの関節は可動性と安定性が交互に積み重なって成り立っているというものです。例えば、足関節の主要な機能は可動性、その上にある膝関節は安定性に、そして股関節は可動性、腰椎は安定性にという具合です。しかし、可動性が主な役割となっている関節には安定性は不必要ということではなく、主要な関節(表)の主な機能が損なわれてしまうと、それを補うために代償運動が起こり隣接する部位にも障害リスクが高まるという概念で、決して1つの機能さえ備わっていれば良いということではありません。

腰痛を発症した選手を評価してみると多くの場合、股関節、胸椎の可動性の低下、体幹深層筋の筋力低下による腰椎の不安定性が見られます。JBJTをスポーツの現場や治療院で活用することによって、局所の評価に留まらず全身の機能評価を行いスポーツ障害予防や、アスリハのプログラム作成に役立てることができます。

               主要な関節の主な機能

腰椎の安定化

❖ 腹横筋を鍛え腹圧を高めて椎間板内圧の上昇を抑制する

➡ 「ドローイン=腹直筋を収縮させ腹部前側を凹ませる」と勘違いしてしまう選手がいますが、この方法では腹部深層筋(腹横筋)の効果的なトレーニングにはなっていません。腹横筋の解剖学的形状を説明し、ドローインを行う時は呼気を利用し横隔膜を押し上げ、腹部回り全体が徐々に萎むイメージ、そして同時に骨盤底筋群に効果的な刺激が加わるように肛門を締めることで腹腔内圧を高めます。この状態でトレーニングを常に行う習慣が大切です(腹横筋の収縮によって胸腰筋膜の緊張が高まると椎間板内圧の上昇を抑制でき、腰椎の安定性を高めることが期待できる 1)

   

   

 

腰椎へのストレスを軽減する回旋動作の習得

➡ 腰椎全体での回旋可動域は5度、各椎間関節での回旋可動域は2度程度と言われています。この狭い腰椎回旋域を補うためには、JBJTの考えを参考に股関節の可動性を高め、骨盤の回旋動作を導き出すことを考えます。そして胸椎を含めた肩甲胸郭関節の可動性の確保は正しい姿勢、腰部障害予防には大切なポイントとなります。

➡ 胸椎の回旋可動域は水平面上で約30度と言われています。腰部に問題を抱えている選手ヘの回旋動作指導には、体の回旋動作の軸を腰部ではなく、みぞおち(赤丸)周辺に置いた回旋軸を指導しています。

 

参考文献:

1.金岡恒治:椎間板性腰痛に対する運動療法  臨床スポーツ医学33(10):974-979,2016

2.Gray Cook: Movement. Functional Movement Systems: Screening, Assessment and Corrective Strategies.  On Target Publication 2010

3. Michael Boyle: Advances in Functional Training.  On Target Publications 2010